2022年3月11日

アブラ州のリーダー ~利他の精神と誠実な心~

  • 本部スタッフ
  • 人材に求められるのは、知性・エネルギー・誠実さの3つだ。しかし、もし最後の一つを持たないのであれば、先の二つは害ですらある。 

    ―ウォーレン・バフェット

    啓発普及部のグラゼンです。

    私はオイスカに入ってから13年になります。

    2021年8月に中部日本研修センターに出張した時、センターの小杉裕一郎所長から「オイスカで仕事をしている理由は何か?」と聞かれました。そのときは、うまく返事ができなかった気がします。

    でも、このブログを書いている今なら、ちゃんとした答えを返すことができると思います。

    私はオイスカで、金銭的なインセンティブにとらわれず、この世界をより良いものにしようとする志のある人たちと一緒に働くことで、私もそうありたいという考えを持つようになりました。これが私がオイスカで仕事をしている理由です。

    私に影響を及ぼした一人、デルフィンさんは、オイスカアブラ農林業研修センターの現所長です。この研修センターでは、1996年以来、アブラ州を中心に南イロコス州や北イロコス州など、計500人の若者と400人の地元農家の農業と食品加工を通じた、エンパワーメントに取り組んできました。また、デルフィンさんは、南イロコスの地元の人たちと協働して15haのマングローブ林の再生活動を行ったり、アブラ州ラガンギランの地元の人たちと一緒に荒廃した森林の再生にも取り組んでいます。そして「子供の森」計画で、101校の子どもたちへ環境教育を実施したり、日本のさかえ幼稚園のご支援により、幼稚園の建設も行いました。

    デルフィンさん

    私は、アブラ州ラガンギランで、国土緑化推進機構の「緑の募金」から助成を受けて、3年間の森林再生モデル事業を実施した際に、デルフィンさんと親しく仕事をする機会を得ました。

    この地域は、フィリピン政府からオイスカが森林再生を委託された50haの土地の一部です。

    デルフィンさんによると、当初、地元の人たちはこのプロジェクトに参加することをためらっていたそうです。なぜならこの土地は、政府がオイスカに森林再生を委託する前に森林再生事業を行っていたのですが、土壌の状態が悪く、苗木の生存率が低かったため、すぐに諦めた場所だからです。

    しかし、そのような土地にもかかわらず、デルフィンさんのリーダーシップのもと、「緑の募金」の3年間の助成もあり、18.7haの土地に地元の固有種の苗木や果実のなる苗木を植えることができました。これは、地域の方々の積極的な参加があってこそ実現したものです。

    私は常々、デルフィンさんがどうやって地元の人たちや行政の人たちを動かし、信頼と尊敬を得ているのか不思議に思っていました。

    しかし、数年間一緒に仕事をするうちに、デルフィンさんの利他の精神と誠実な心が、人々の信頼につながっていることに気づきました。

    デルフィンさんは、地域で緊急事態が発生すると、夜でも助けを求められることがよくあると話してくれました。

    2021年10月にアブラを襲った台風は、地域の人々の生活に大きな打撃を与えました。この緊急事態では、デルフィンさんは、センターの研修生とともに、米や野菜などセンターの生産物や麺類などのインスタント食品、缶詰などを救援物資として配りました。

    私はデルフィンさんに「もっとアブラ州のために貢献できるように政府のポジションに立候補してはどうか」と話したことがあります。それほど地域の人々からの信頼が厚く、リーダーシップを発揮している人材なのです。
    (デルフィンさんの答えは「政治の世界は複雑すぎる。十分な資金もないから無理」というものでした)

    森林再生事業に話を戻すと、助成金は2020年で終了しましたが、デルフィンさんは、現在も地元住民や政府関係者と密接に連携し、植林地を火災から守る防火帯の整備など、プロジェクト地全体の維持にあたっています。火災で消失した周辺の山々とは異なり、私たちのプロジェクトサイトは、地域住民によって常に維持され、守られているため豊かな森となっています。

    デルフィンさんは、荒廃した森を再生するために、地元の人たちとともに、常に植林を続けています。今は、植林活動のたびに苗木を運ぶ負担を減らすために、敷地内に苗床を作ることを計画しているのだそうです。

    コロナの影響から徐々に回復してきた今、デルフィンさんは、地域住民や自身が始めた「誕生日に木を植えよう」キャンペーンの中心メンバー70人とともに、アブラ州の森林の早期回復を願い、走り続けています。

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