■繰糸機の導入で製糸能力が向上!
今年の1月、日本の外務省のNGO連携無償資金協力を得て3年計画でスタートした「ネグロスシルク事業を基盤とする養蚕普及全国展開支援事業」(以下、支援事業)は、計画した初年度の各種活動を予定通り遂行、次年度への準備を進めています。
初年度の取り組みの中で特筆すべきものは、1998年に日本から移設した中古の繰糸機(製糸機械)の交換でした。支援事業の対象地であるルソン島のベンゲット州、パナイ島のアクラン州、ミンダナオ島の東ミサミス州の各地で新たに養蚕を始めた農家が、今後順調に繭を生産すると、これまで約20年間使用してきた製糸機械では生産が追い付かないため、6月にタイから中古の大型製糸機械を導入しました。この製糸機械では、年間70tの生繭を生糸として操り取ることが可能となります。
■育成セミナーの成果!養蚕農家が増加中
各州における養蚕農家の育成も順調に進み、40戸の農家が新規に養蚕をスタートしました。育成セミナーでは、初めて養蚕に取り組む農家に対し、「30―30―30 」を目標にするようアドバイスをしています。これは、蚕に与える桑の栽培を30aで行い、1箱(2万粒)の蚕種から30㎏の生繭を生産し、年間3万(英語では30thousandと表現)ペソの収入を目指そうというもの。また、各地から養蚕農家を集めて、バゴ研修センターで行う2週間の研修中では、桑の苗木の植え付けや蚕室での各種管理といった具体的な技術指導に加え、日本語の講義も行っています。支援事業を統括する渡辺重美所長はその目的を「日本からの支援であることを理解してもらうこととあわせ、日本から指導に来てくださる専門家らと、挨拶程度は日本語で交わせたら、コミュニケーションもスムーズになるはず」と話しています。
10月には山梨県の農産農家の芦澤定弘氏を現地に派遣、養蚕農家を対象にしたセミナーを実施しました。年間を通して行われるセミナーには、東ミサミス州からの参加が多く、関心の高さがうかがえました。その背景にはロドリゴ・ドゥテルテ大統領が自身の政治基盤であるミンダナオ島でのシルク生産を切望していることが挙げられます。ドゥテルテ大統領は、 就任宣誓式でミンダナオシルクのバロン・タガログ(民族衣装。縦糸に絹糸が、横糸にはパイナップルなどの繊維などが使われる)の着用を希望したものの、当時は、同島ではシルク生産が行われておらず、オイスカが用意したネグロス産の絹糸をミンダナオで織り上げたという経緯もあり、同地でのシルク生産への期待が高まっています。
支援事業の着実な進捗は、近隣の州にも影響を与えており、ルソン島とパナイ島で新たに3州が養蚕への取り組みを切望。そのため来年度は、拠点となっている西ネグロス州を含め、国内7州での普及活動を推進する予定です。
今後も政府の関係機関と連携し、各地の養蚕農家が高品質の繭を生産できるよう、セミナーや研修を通じた指導を行い、住民の生計向上とあわせ、養蚕を含めた関連産業が地域の発展につながる産業として成長できるよう努めていきます。